投資信託の仕組みが分かってくると、
次に必ずぶつかるのが「インデックスVSアクティブ」論争です。
「アクティブはインデックスに勝てない」などとも言われますが、
そもそもインデックスとアクティブの違いが分からなければ考えようもありません。
今回はインデックス投資とアクティブ投資について
ポイントを押さえて解説していきます。
インデックス投資は平均点
インデックスとは、株式指数のことです。
株価指数と連動するように運用を行うのが、インデックス投資です。
よく、学校のテストに例えられますが、
インデックス投資は、テストで毎回平均点を目指す、というイメージです。
「平均」と聞くと大したことがないと思われるかも知れません。
ただ、インデックス投資が目指すのは、
例えば灘高校や開成高校といった超ハイレベルな戦いの中での平均です。
言い方は良くないかも知れませんが、
一般的な学生が灘高校の平均点をとるのは簡単ではないと思われるでしょう。
主なインデックス一覧
□日本株式
日経平均株価
TOPIX(トピックス)
東証マザーズ指数
□米国株式
ダウ平均株価(NYダウ)
S&P500指数
NASDAQ(ナスダック)指数
□イギリス株式
FTSETM100指数
□ドイツ株式
DAX30指数
□先進国株式(除く日本)
MSCIコクサイ・インデックス
□先進国株式(含む日本)
MSCIワールド・インデックス
□新興国株式
MSCIエマージング・インデックス
株価指数ラインナップ | 日本取引所グループ
そもそもTOPIX(トピックス)って何?
日本の上場会社約2170社(※1)の株価を加重平均(※2)して指数化しています。
※1
2023年11月30日現在
※2
加重平均…各データに重みづけをして計算する平均値。
投資の世界では主に「時価総額の高いものを優先する」という意味で使われることが多い。
TOPIXはざっくり言うと、
日本の上場企業の株を全部買いますよ~
儲かってる順に多く買いますよ~
という投資信託です。
では、TOPIXの元となる株式の価格は、
いったい誰が決めているのでしょうか。
それは主に、機関投資家(※)です。
※機関投資家…証券会社や銀行、保険会社などに所属する投資のプロ集団
なぜそう言えるかというと、
株式市場の取引の大半を行っているのは事実上、機関投資家だからです。
前回の記事でもご紹介した通り、
機関投資家は個人では処理できないような膨大な知識量とや情報量、
さらにはAI(アルゴリズム)などを駆使し、それに基づいて株を売り買いします。
そのため、機関投資家の判断や実際の売り買いの影響が、株価に強く反映されるわけです。
冒頭、灘高校のテストの平均点で例えましたが、
インデックスというのは単なる一般的な平均ではなく、
投資プロ集団のハイレベルな戦いの中での平均
ということが言えます。
ちなみに、投資の神様として有名なウォーレン・バフェット氏が管財人に対して
「私の死後は、資産の9割をS&P500(インデックス投資)で運用しなさい」と伝えたとされています。
このことからも、インデックス投資は単なる平均ではないことが伺えます。
投資の世界では平均点を超えるのは難しい
やはり「平均以上の実績を目指したい」という方が出てきます。
そこで生まれたのが、アクティブ投資です。
アクティブ投資は
株価の上昇が期待される銘柄を厳選して投資し、
インデックスを上回る運用成果を目指す運用手法です。
平均点では満足できない。ヤマを張って勉強して、当たれば満点!
少し極端ですが、こんなイメージでしょうか。
コンセプトとしては、もっともな考え方だと思います。
ただ、過去の実績を見ているとインデックス、
つまり機関投資家が創り出した平均点を超えていくのは
なかなか簡単ではないことが分かります。
画像は、米国株式のアクティブファンドとインデックス(S&P500)の
5年間の勝率の比較です。(2017年末時点)
出典:SPIVA | S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
アクティブファンドが白、インデックスが赤です。
インデックスの勝率84.23%に対して、
アクティブファンドは15.77%となっています。
アクティブファンドが、インデックスに大きく負けていることが一目瞭然です。
ちなみに5年、3年、1年のデータがこちらです。
インデックスの勝率について
1年間では63.08%
3年間では80.56%
となっています。
アクティブ運用の過去の実績においてはそのリターンで
インデックスに軍配が上がっています。
出典:SPIVA® U.S. Scorecard
米国株ではインデックスの圧勝
以下、抜粋です。
アクティブ運用は、金融危機後の短期間のみならず、
過去10年以上の期間のさまざまな局面で見ても、
インデックス運用を下回っている。
2016年12月までの15年間で、
大型株では92.15%
中型株では95.40%
小型株では93.21%
のアクティブファンドが、それぞれのインデックスを下回った。
短期間で見ると、アクティブ運用のパフォーマンスは多少改善するが、
それでも悪いことに変わりはない。
アクティブ運用はインデックス運用との手数料で比較しても、
そのパフォーマンスの低さは致命的だ。
アクティブ運用は、上場投資信託(※2)よりも高い利回りを狙うため、手数料も高い。
こうした手数料がアクティブファンドマネージャーの稼ぎとなる。
よって高い利回りを確保できなければ、それは投資家にとって重大な問題となる。
金融危機以降、アクティブ運用から1兆ドル(約140兆円)が流出した。
一方、上場投資信託には1兆7000億ドルが集まり、その傾向は加速している。
レポートは現存するファンドのみならず、
過去15年間に存在した全てのファンドを対象としている。
レポートを公正なものとするためだ。
アクティブ運用のパフォーマンスの低さを考えると、レポートが調査した期間中、
十分な成果を上げてきたアクティブファンドが極めてわずかであることも、驚きには値しない。
SPIVA…S&P IndicesVersus Active
S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが発行している、
アクティブファンドとインデックスを比較するレポート。
投資の通知表とも呼ばれている。
※2
上場投資信託…ETFともいう。
株価平均などの指数に連動した運用を目指す投資信託のこと。
金融庁長官が斬る日本の投資信託
日本国内での評価はどんなものでしょうか。
2017年4月7日、つみたてNISA開始に先立って
金融庁の森信親長官が講演を行いました。
なかなかに強烈な内容で、業界では通称「森談話」と呼ばれています。
講演の中で森長官は、
日本国内で発売されている投資信託の中で
つみたてNISAの対象となり得る商品が非常に少なく、
とりわけアクティブファンドに至っては
金融庁の基準を満たす商品が全体の1%以下であるとし、
業界関係者に対して強く改善を求めました。
下記に概要をまとめます。(数字はすべて当時のもの)
日本には、まともな投資信託がほとんど無い。
日本で販売されている株式投資信託は5406本もあるが、
そのうちインデックス運用の株式投資信託はわずか381本。
さらに、ここから長期投資にふさわしいものを一定の基準で選ぶと、
残ったものはたったの50本、商品全体のわずか13%しか無かった。
一定の基準とは次のとおりです。
1,毎月分配型(※)の投資信託を除く
※
日本の投資信託販売の闇を代表するような商品。
「毎月お金が返ってきますよ~」という謳い文句で、主にシニア層に販売されてきた。
運用が悪ければファンドの資産を食いつぶしながら投資家に分配する。
タコが飢えたときに自分の足をかじることから、「タコ足ファンド」と呼ばれる。
2,レバレッジ(※)のかかった投資信託を除く
※
少ない資金で大きなリターンを狙うハイリスクな投資方法。
3,信託期間が短いものを除く
4,ノーロード(※1)で信託報酬(※2)が一定率以下のものに限る
※1
購入時の手数料がかからないもの
※2
ファンドの運用・管理の報酬として運営に関わる会社に支払われる手数料。
ざっくり言うと投資信託にかかるコスト。
以上、4つの条件でスクリーニングした結果、
森長官から見てまともな商品が全体の13%しか無かったというのです。
まともなアクティブファンドは1%以下?
日本で10年以上存続している、日本株式のアクティブファンドは281本。
過去10年の平均リターンは、年率1.4%であった。
同じ期間の日経平均が年率3%であったから、インデックスに負けている。
しかも、アクティブファンド全体の1/3がマイナス運用になっており、
残念ながらチャ―ルズ・エリスのいう敗者のゲームを体現している。
アクティブ型投資信託のうち、
1.運用が始まってから2/3以上の期間において資金流入(※)となっている
2.ノーロードで信託報酬が一定率以下となっている
上記の条件を満たすものは、なんと2707本の中で5本のみ。
全体の0.2%に過ぎなかったということです。
※
ファンドにお金が集まっている状態。
資金流入の大きいファンドは、投資家から一定の評価を得ていると言える。
一方、継続的に解約が生じているファンドは資金流出から運用難に陥り、
成績が悪化するリスクが高まる。
名著:敗者のゲーム
株式投資を理解する上での書籍として非常に有名なもののひとつです。
インデックス投資を全面的に肯定している書籍ではありませんが、
その優位性を、経験やデータを交えて合理的に説明しています。
この中で著者が強調しているのは主に以下の2点です。
・投資は、できるだけ感情を排除すること
・投資は、単純な方が良い
最も投資に適しているのはインデックス投資である
と結論付けています。
株価が上がろうと下がろうと一切の感情を排除して
数字だけに注目し、淡々と利益確定、もしくは損切りができる
そんな人はアクティブ投資でも全く問題ない、とも読み取れます。
投信販売の闇
なぜ、金融庁肝煎りのつみたてNISAに
アクティブファンドのラインナップが異常に少ないのか
理解いただけたかと思います。
ここまで書いておいて何ですが、私はアクティブファンド肯定派です。
インデックスに勝てる良質なアクティブファンドは間違いなく存在しており、
それらをご存じであれば、資産運用の一部に取り入れるのも良いでしょう。
下図は、インデックスファンドに大きく勝っている良質なアクティブファンドの例です。
良質なアクティブファンドを見つけられない、側に優秀なアドバイザーがいないという方は
手堅くインデックスファンドに投資しておきましょう。
三菱UFJ国際投信「ベイリー・ギフォード社の投資哲学を実践するファンド」
以下の森長官の言葉は、
日本での投資信託販売の不都合な実態を示しています。
以下、要約です。
つみたてNISAの基準を満たしていると言える投資信託を、日米で比較した。
米国の売れ筋トップ10の中では、その基準を満たすものは8本あった。
対して、日本の売れ筋トップ10の中には、基準を満たすものは1本も無かった。
上位30位まで確認すると、29位に1本あるだけであった。
日米におけるマーケット環境の違いや金融教育、投資家の成熟度といった違いもあろうが、
それよりも問題なのは金融機関の販売姿勢だ。
日本では金融の世界において現在まで、
顧客本位ではない商品が作られ、販売されてきたと言わざるを得ない。
これまでのやり方を続けていては、今後十年経っても二十年経っても何も変わらず、
日本の資産運用業は衰退していくだけではないか。
日本証券アナリスト協会 第8回国際セミナー 「資産運用ビジネスの新しい動きとそれに向けた戦略」における 森金融庁長官基調講演
まとめ
インデックス投資とアクティブ投資について解説してきました。
過去のデータから引用とすると
どうしてもアクティブ運用の悪口のようになってしまいますが、
私たちは未来に向かって投資していくわけですから、
ご自身が勉強した上で、納得の上で投資をしましょう。
私はインデックスVSアクティブ論争よりも、
自分の保有している投資信託が
インデックス運用なのかアクティブ運用なのか
理解していない方がとても多い
ことの方が気になっています。
投資を始めるハードルが下がっている今こそ、
出口のことも考える機会が必要だと思っています。
安直な理由で投資が広まっていった先に何が待っているのか、
少々懸念を抱いています。
今回のまとめ
・インデックス投資は平均点を狙う
・投資の世界の平均点は高い
・アクティブ投資は平均点を越えようとする
・平均点を超えるファンドは極めて少数
・過去の実績ではインデックスはアクティブファンドを上回る